なんで配賦するのか


トマス・コーベット「TOCスループット会計」には「スループット会計一本で企業のあらゆる意思決定ができる。ミスリーディングな配賦なんて何のメリットもない」みたいなことが書いてあった。では、普通の原価会計をやっている会社は、何のために配賦をしているのか。
例えば村田製作所。この本によると

P-127共通部門費を製造部門の損益計算書に費用配賦すべきでないとの議論もあるが、それでは製品別や部門別の営業利益が
わからなくなってしまい、会社にとって最も重要な営業利益や経常利益の重要性が、損益管理の中心を担う製造組織まで
浸透しない。そこで、費用は、配賦によらざるを得ないものも含めてできるだけ合理的な方法で部門や製品に負担させる。

要するに、製造部門に間接費を使い放題にさせないために、配賦を行うわけだ。
となると、

P-129配賦基準には、用役利用基準を採用すべきで、安易に売上高基準や生産高基準は採用するべきではない。

配賦基準にはアウトプットではなくインプットの量を使うことになる。
売上や生産に比例して負担を重くすると、「よい成績を挙げるとペナルティが課される」ということになってみんなやる気がなくなるから。

TOCから見たらどうか

上記の考え方は、TOCサイドから見てどうか。
スループット会計では配賦を行わないが、だからといって間接費の増加を止められないわけではない。
業務費用を製品に割り振らないだけで、その総額はきちんと追跡しているのだから、スループットを減少させるような業務費用の追加支出が認められることはない。


しかし、村田製作所の場合は「マトリクス」=製品×工程ごとに経常利益までの損益を見ている。これは配賦をしないと実現できない。
配賦を認めなければ、製品×工程ごとの損益を管理することはできなくなる。そうなると各工程に間接費を減らそうと努力する人がいなくなってしまう。これは不安だ。
多分、TOCは「そんな努力しなくても別にいいんじゃねえの」と考えているのだと思う。
間接費を含む製品原価を見ながらコストダウンするとろくでもないことになる、というのはTOCがよく言っていることだ。
例えば

制約理論(TOC)についてのノート

制約理論(TOC)についてのノート

にこんな実例が載っている:

この会社は、90億ドルの売上を誇るアメリカの大企業でした。
...
この会社に新しい威勢のよいCEOが就任しました。
彼が最初に行ったことは、原価計算による「原価」が市場価格よりも高い部品を全部アウトソースし、外部からの購入品に
切り替えることでした。こうして、間接費が、これまでよりも少ない数の部品に配賦されました。当然、残っていた部品の
「原価」は高くなりました。それで、市場価格よりも原価の高い部品を、さらにアウトソースしました。彼はこれを繰り返し
ました。こうするうちに第4四半期になり、CEOは、業績が非常に悪くなっているのに気付きました。
そこでひらめいたアイデアが、組立工場を3シフトで、1週7日間フル回転させることでした。資金を手当てし、将来の注文を
あてにして、在庫の山を築きました。ボトムラインは見事に改善しました。自分がもたらした状況を、先行きどう収拾したら
よいかわからなくなったCEOは会社をやめました。
会社から何万という職が減りました。この会社は、その規模が1/3になり、社名を変更しました。