売価と原価の微妙な関係

さっきまで、売価決定のためには原価を把握しておかなくてはならないと思っていたのだが、売価と原価の関係はそんな一方的なものではないようだ。

決定版 ほんとうにわかる管理会計&戦略会計

決定版 ほんとうにわかる管理会計&戦略会計

この本にこんな話が出てくる。


ある工場で、銀製・鉄製・プラスチック製のマグカップを作っている。
材料がどれであっても、同じ機械を1回ガチャンと動かすとカップが1個できる。
それぞれの製品のコストは、社内の規定で以下のように定められている。

プラスチック
材料費 10,000円 3,000円 50円
加工費 5,000円 1,500円 25円
製造コスト 15,000円 4,500円 75円

※加工費は、材料費の50%とする


ここである経理マンが、「同じ人間が同じ機械で作っているのだから、材料が違うだけで加工費が100倍も違うのは合理的でない」と考えて、割り掛けする加工費を以下のように改定した。

プラスチック
材料費 10,000円 3,000円 50円
加工費 2,000円 2,000円 2,000円
製造コスト 12,000円 5,000円 2,050円

※年間の加工費÷3種類のカップの年間生産予定数量=2,000円なので、加工費は一律2,000円とする


これは話をわかりやすくするための冗談みたいな例なのだが、プラスチックのマグカップの原価が2000円では利益が出るわけがないので、営業の人が経理部に怒鳴り込んできたり、工場の人がコストダウンのために機械で加工するのを止めて手作りし始めたり、えらいことになってしまった。
なので今度はこんなコストテーブルにしたら

プラスチック
材料費 10,000円 3,000円 50円
加工費 40円 40円 40円
製造コスト 10,040円 3,040円 90円

年度末の決算整理で操業度差異(加工費の配賦漏れ)が一気に表面化して巨額の赤字を計上することに。言いだしっぺの経理マンはクビになってしまった。


ということは、「売価を決定するために原価を把握する」ばっかりではなくて、「売れる値段に収まるように恣意的に原価を決める」という方向もありなわけだ。また「合理的な原価」「正確な原価」が必ずしも会社のためになるわけではないんだ。へえ。