エンジニアリング・チェーン・マネジメント

昨年、現行商品点数が100ぐらいの食品メーカーの生産管理システムを作った。
メーカーさんのシステムは初めてだったのでいろいろカルチャーショックを受けたのだが、中でも、どの商品が今いくつあるのか誰もわかっていない(なのに業務が回っている)のはびっくりした。
在庫数のレポートは週一で出てくるのだが、そこに載っているのは「今倉庫にいくつあるか」という数字なので引当て済みの在庫数が混入している。だから欠品事故(=受注担当が倉庫に1000個あるからといって新規に500個受注したが、実はその1000個は明日出荷予定のものだったので、あわてて店舗から店頭在庫を500個かきあつめて...といったトラブル)が頻繁に発生していた。


弊社は業務系のシステムの構築経験がほとんどないのでみんなでびっくりしていたのだが、実は

  • 在庫がいくつあるのかわからない
  • 在庫があるのは分かってるけど引当て済みなのかどうかわからない
  • 未来の在庫の推移(現在庫数−x月x日までの出荷予定数+x月x日までの製造予定数)がわからない

という会社はぜんぜん珍しくないらしい。
しかし「何月何日に何がいくつあるのか」がわからないと、日常の受注活動は目隠ししたままのドライブになってしまう。

  • 顧客から「xを1000個ほしいのだが、いつまでにできる?」と聞かれても答えられない
  • 欠品回避のために突発的な増産が必要になる。これを繰り返すと、製造部門が営業部門と対立するようになる
  • 増産を依頼すると製造が怒るので、営業は製造数を日ごろから多めに依頼するようになる。製造は言われたとおりに作ると賞味期限切れが発生して責任を問われるので、営業の要求よりも少なめに作るようになる。結果、ほんとはいくつ必要で、実際にいくつ作られたのか、誰にもわからなくなる

などなど、ろくなことがない。


四倉幹夫「エンジニアリング・チェーン・マネジメント」は、そういった問題を抱える製造業に対する、ソリューション提案の書だ。
P-153から在庫がらみの提案を抜き出すと:

エンジニアリング・チェーン・マネジメントでは在庫バッファから時間バッファ
への移行による需給調整という新しい考え方を導入する。
<中略>
これまでの生産システムには、在庫に時間の概念がなかったので、空間の間に在
庫というバッファがあり、それが生産のチェーンをスムースに進行させる要素と
して働いていた。
<中略>
今までの生産管理のデータに時系列の情報を付けることによって、在庫を持つこ
とによってしか需給バランスを調整できなかった工場に、今の在庫を持たない"未来"
という状態を予測してシミュレートする機能を提供できるようになるのだ。

明日以降の出荷予定と生産予定が1日単位で見えていれば、安全在庫を絞っても欠品しない、という考え方だ。
2/1に1000個くれという引合いがあったら、2/1時点の在庫数を確認し、足りなければ1/31までの生産余力を確認する。
今在庫がなくても、2/1までに作れることが確認できれば、受注できるわけだ。
これは2004年初版の本だ。ということは、いまだに生産管理システムはこの辺が最前線なのだ。
食品メーカーと付き合う前の自分なら、大したシステムじゃないよなと思ったはずだ。
イデアは単純だが、使えるシステムにするのがものすごく大変なのが、今はよくわかる。

例えば生産余力の算出。
件の食品メーカーの工場では、1ラインで複数の製品を製造するのだが、1時点では1製品がラインを占有しているとか、ただしアレとコレだけは混流できるとか、白いもののあとで黒いものを流すのはいいけど逆順は色が悪くなるからダメだとか、1時間ラインを止めて掃除すれば黒の後で白を流せるとか、掃除は1日1回までだけどこれこれの条件の時はもう1回やってもいいとか、聞き取りしている時点で病気になりそうだった。
四倉氏の会社=クラステクノロジーのパッケージは、きっとすごいですよ。