成熟は遅いほうがいい話


岡潔という人が教育について何か重要なことを語っていることはわかるのだが、語り口が難解でなかなか接近できない。
例えば名随筆の評価の高い「春宵十話」にこうある:

すべて成熟は早すぎるよりも遅すぎる方がよい。
これが教育というものの根本原則だと思う。

早いと何が駄目なのかは読んでもよくわからないのだが、多分「次のステージに進む準備を十分にしてから進みなさい」という話なのだと思う。
次に進めるのにわざと進まないという智慧は、塚越寛「いい会社をつくりましょう」にも書いてあった。
塚越氏は伊那食品工業という寒天メーカーの経営者で、同社は1958年の会社設立から48年連続の増収増員増益を達成したという超優良企業。
こんなことが書いてある:

企業は一定の成長をつづけなければなりませんが、急激な成長を慎み、急成長でもマイナス成長でもない、安定成長
を心がけるべきではないでしょうか。たとえ急成長は可能でも、あえて成長を抑えることで永続する、という発想の経営
をつづけていきたいと思います。

パイの限界に至るまでの時間を長くするために、成長を限りなく抑えて、低成長でいくべきだと考え、実行してきました。
いつでも適正な成長度を見きわめながら進むことが、企業永続の原点だと思います。

これは、ほんとは今稼げる金を10年に分けて稼ぎます、というだけの話ではない。
10年かけることをあらかじめ決めておけば成長の質が向上する、という話だ。
例えば海外進出について

当社では、グローバル化が叫ばれるより、ずっと以前から、布石を打ってきました。日本で人件費などの
コストが中国などと比べて圧倒的に高くなってから、あわてて海外へ進出した、という経過ではありません
でした。...1970年代から海外へ目を向けてきました。長期的な視野がなければできないことでした。
...
「いざ海外へ」と、ゆとりのないかたちで相手の人選や会社選びをした場合、成功を収めることは容易では
ありません。結果を急ぐあまりに、結局は高い"授業料"を払うことになる事例が多いと聞きます。

なんて書いてある。
日本企業の対中投資が死屍累々、という話を聞いて、中国はおっかない国なんだなあーと思っていたが、それは話の一面であって、足元を見られるような状態で出て行ったから怪しい人が群がってきただけという側面もあるのだと、これ読んで気付いた。


わざと成長を遅らせるなんてことは、ごく一部の優良企業のみに許されることだろう。
が、労働市場では現状維持してればそう簡単に仕事を失わないから、個人にはこの「成長を遅らせて質を高める」というやり方が使えると思う。
昔は抜擢人事とか強烈なストレッチに憧れたが、そんなことにならなくてラッキーだったのかもしれない。なんつって。