小林秀雄が素読について語ったこと


引き続き「人間の建設 (新潮文庫)」から。岡潔との対談の最後に、小林秀雄素読について語ったこと。

論語を簡単に暗記してしまう。暗記するだけで意味が分からなければ、無意味なことだというが、
それでは論語の意味とはなんでしょう。それは人により年齢により、さまざまな意味にとれるもの
でしょう。一生かかったってわからない意味さえ含んでいるかもしれない。それなら意味を教える
ことは、実に曖昧な教育だとわかるでしょう。丸暗記させる教育だけが、はっきりした教育です。

論語はまず何を措いても、「万葉」の歌と同じように意味を孕んだ「すがた」なのです。古典は
みんな動かせない「すがた」です。その「すがた」に親しませるという大事なことを素読教育が
果たしたと考えればよい。「すがた」に親しませるということができるだけで、「すがた」を理解
させることはできない。とすれば、「すがた」教育の方法は、素読的方法以外には理論上ないはず
なのです。
実際問題としてこの方法が困難となったとしても、原理的にはこの方法の線からはずれることは
できないはずなんです。

岡本吏郎師は「フォトリーディングは現代の素読です」と言っていた。また「『××入門』みたいな本を読んじゃダメです。いきなり原典にあたることは鉄則です」とも。
我々は「意味を理解しなければ読んだことにはならない」という思い込みから自由になっていいのだ。