本田宗一郎の器がでかい話

久米是志 「ひらめき」の設計図 にあった、藤沢武夫本田宗一郎と組もうと決意したときの話。
本田宗一郎のすさまじい発想力が伺える。

ある時、本田さんと藤沢さんが、ある外国人のお客様を招待して料亭で一席もうけたそうです。
ところがお客さんがトイレに行った後、妙な顔をして帰ってきた。聞いてみると、トイレに入れ歯を
落としてしまったという。終戦後まもなくの話ですから、トイレは水洗でなく汲み取り式です。話を
聞いた本田さんは「いいから、待ってな」と座敷を出て行った。しばらくすると、本田さんは落ちた
入れ歯を口にくわえて、踊りながら座敷に帰ってきた
本田さんは裸になって、トイレの壷の中に入って糞尿のなかから入れ歯を取り出し、入れ歯を洗った
後、落とした人にもう汚くないよと知らせるために、自分で口にくわえて見せたんでしょう。
それを見ていた藤沢さんは「この男にはかなわない。この男の言うとおりにやってみよう」と決意し
たそうです。

この話のポイントは「踊りながら帰ってきた」というところにある。
ただくわえて戻ってきたら変な人になってしまうから、どうしても踊る必要があるのだが、そんな突飛な正解をどうやって探し当てるのだろう。
「いいから、待ってな」なんて、便所で入れ歯を拾う人とは思えない格好よさだ。これは惚れる。