技法の提唱者になる不幸


正美氏にいろいろ質問した時「僕はあんまりネット見ないんだけど、たまに見るとTMについて『...』なんてデタラメが書いてあったりしてね、ほんとうんざりするよ」なんて言われたんだけど、ヒヒヒそれ書いたの俺じゃねえかとか思って変な汗かいたりして。
技法の提唱者というのは、常に誤解と誤読と毎度繰返しの質問にさらされて、大変疲れるポジションだと思う。
身内ではとっくに議論が終わっていることについて「ここがおかしい」とか言ってくる人にいちいち返事したくないものな。
が、こっちも信者じゃないんだから、考えても分からなかったことは教えてくださいと言うしかない。「何だかわかんないけど信じてます」では尊師とその仲間たちになってしまう。

理解より誤解が多いのが普通

教わる側は全体像を知らずに断片的なルールを覚えていくから、統合する時に強烈な不協和を起こす。ここに誤解のタネがある。
例えばTMのルールに以下の2つがある。

  1. 実データにnullがあるのは絶対ダメ。
  2. サブセットに交わりがあるのは(=全部合わせて全体にならないのは)間違い。

ふーんなるほどと思って データベース設計論 T字形ER―関係モデルとオジブェクト指向の統合をめざして P-93を見ると、相違のサブセット(T字の右側=属性違いがあるサブセット)間に交わりが出ているのを、ルール2.に従って対照表で解消する絵が描いてある。
めんどくさいから転載しないけど、この絵のまま実装すると生成した対照表にnullになる属性が出てしまう。つまりルール1.に反している。
私は半分信者みたいなもんだから、これ見ても「俺はTMのルールに矛盾を発見した!」なんて全然思わなかった。こんなケースは実務ではごまんと出るのだから、絶対TMのルール内で捌いているはずだと思って聞いてみたら、案の定「取引先区分.取引先.対照表」をさらにnull回避のためのサブセットに分解するのだとのこと。
本が小さいから絵が収まりきらなかったのだろう。ただそれだけのことに1年以上ひっかかっていた。そんなものだ。


この業界で正しく伝わるのはせいぜい末端のTipsだけで、方法論なんて正しく伝わるわけがない。理解より誤解が多いのが常態。
正美氏の話を聞いていると、Coddが言ったことなんてこの業界に全く伝わってないみたいだもの*1
技法の提唱者になるということは(それで金儲けでもしない限り)ただ面倒なだけだ。それでも公開していただけるのなら、ありがたく頂戴しないともったいないと思う。

*1:この前人力検索で「Coddの論文の和訳が出版されてませんか?」と聞いてみたら、ない、ということが分かった。すごいびっくりした