勝てないとわかっている戦争


久しぶりに書くのにデータモデリングとぜんぜん関係ないことを書きます。
業界人としてはてな人力検索を使ったことがないのはまずいべということで、前から誰かに聞きたかったことを質問してみたら、即日上質の回答がたくさんもらえた。その質問がこれ。

http://q.hatena.ne.jp/1170758997
太平洋戦争が、よく言われるように無謀な(=勝ち目のない)戦争であったかどうかを調べてみようと思っています。
無謀であったかどうかは「勝った!」と見なすラインをどこに引くかによって変わってきます。
例えば日露戦争は戦線を注意深く限定し、早くから講和の算段をしていたので、ロシアという大国相手であっても「無謀な戦争」にはなりませんでした。
そこで質問です。
太平洋戦争の開戦にあたって、日本の戦争指導部は「何が、どのような状態になったら勝利」と考えていたのでしょうか。
例:「米本土に陸軍が上陸して、アメリカ全土を占領したら勝利」

例えば開戦直前、昭和天皇に「絶対に勝てるか」と問われた杉山参謀総長が、絶対とは言えないが見込みはありますと回答したそうですが、このとき杉山参謀総長は(あるいは昭和天皇は)勝利ということを「何がどうなること」とイメージしていたのかが知りたいのです。
できれば、何々を読めば書いてあるよ、という情報が欲しい。

回答で教えてもらった文献にはまだほとんど目を通していないけど、だいぶ考えがまとまってきた。

  • 太平洋戦争は大義のレベルではきわめてよく納得できる。帝国主義の終わりの始まり、という世界史的な意義もわかる。
  • が、大義は開戦を決意するための必要条件に過ぎない。大義を実現する手段があるのか・その手段を実行する能力があったのかが問題。
  • つまり、どうやってアメリカを降参させるつもりだったのか、が問題。これを知らずに当時の日本の意志は理解できない。
  • 例えば対米戦争計画が「アメリカ西海岸に上陸し、東に向かって進撃し、最後はニューヨークとワシントンを占領して勝つ」というものだったら、「そりゃー無理だろう」という話になる。
  • いただいた回答を見ると、日本はそんな無理ことは考えていなかったようだ*1。では、何をどうすることによってアメリカを降参させるつもりだったのか?
  • 日本の戦争が何をゴールにしているのかわからない*2と思っていたが、いただいた回答を読んでみると、実際にゴールはなかったものと思われる。
  • ゴールが決まっていなければ、ゴールから逆算した今日の作戦も立てようがない。言い方は悪いが、回答にあったように「適当に暴れる」ことしかできない。
  • ロジスティクスの軽視・戦線の過剰な拡大などの、今から見ると不条理に見える日本軍の行動は、ゴールがなかったことに起因する。


で、「なんで勝てない戦争をしたの?」「日本は愚かだったからだよ」式の理解は間違っている、と今は考えている。

  • 太平洋戦争の開戦前、戦争指導部は現実を冷静に分析した上で、独力でアメリカを屈服させる方法はない、という結論に達していた。
  • それでも戦争をしなくてはならないと決めたのなら、仮にでも戦勝のシナリオを書かなくてはならない。それがなければ何の作戦も立てられないから。
  • この状況で書き上げられた戦勝のシナリオは希望的観測と他力本願に満ちたものになる。戦後から見ると自国の戦力を過大評価し、ヨーロッパの戦況を楽観視した奇妙なものに見える。
  • つまり、自己の過大評価と楽観が開戦を決意させた、というのは話が逆。開戦が先に決まってしまったから、自己を過大評価せざるを得なくなったというのが多分本当。
  • 「勝てないことがわかっているのに開戦を決断した」ということが、今の我々にはさっぱり理解できない。ここを越えなくてはならない。


さて、勝てないと分かっている戦争をした理由は何か。調べてみるべき方向が2つ。

  1. 日本史上に繰り返し現れる「敗けると知っていても、武士には起たねばならぬ時がある」という思想との関連。ラストサムライに描かれたアレ。神風連の乱三島由紀夫など。
  2. 陰謀論。御前会議が外部の影響を受けていたと考えてみる。

*1:たくさん回答をもらったけど、日本には米本土に上陸する計画があった、という話は出てこなかった

*2:「アジアの開放がゴール」みたいな話ではなくて、「ニューヨークを占領すること」「米太平洋艦隊を全滅させること」とか、そういう意味のゴール