T字形で事業を解析する、とは

染色と裁断の順番を図示したら何がわかるか

T字形ER手法では、常に2つのentityをつないで(=binaryに)対照表を生成する。
3つ以上のentityをつないで(=N-aryに)対照表を生成することは禁じられている。
黒本P-66によれば、その理由は

N-ary方式を使えば、ビジネスの解析ができなくなるからである。

とのこと。
では、ビジネスの解析とは何か。

例えば「論理データベース論考」P-195のER図は、アパレルメーカーのビジネスをT字形で解析した例。
binaryに対照表を追加してゆくことにより、この会社が

  • 生地を裁断してから染色するのか
  • 生地を染色してから裁断するのか

どちらのやり方で仕事をしているのか明示することができる。
... できるのは分かるが、裁断と染色の順番が分かったから何なのだろうか?

有名な話なのね

こういうのを指して「ビジネスの解析」とはずいぶん大げさではないか?と思っていたのだが、
今岡善次郎「サプライチェーン18の法則」で、ベネトンがセーターの染色と編み上げの順序を入れ替えることで大成功を収めた、という事例を読んで、なるほど重要なことなのだなと納得。
これはそうとう有名な話らしいので、大発見みたいに書くのも恥ずかしいのだが、いいや。書いちゃう。


伝統的なセーターの製法では

  • 糸を染めてからセーターを編む

のだが、この順序で作業すると染色から販売まで6ヶ月かかってしまう。
なので、アパレルメーカーは半年先の需要動向を予想して動かなくてはならない。
しかし半年先の流行色を読むのは難しく、機会損失と過剰在庫が業界のアタリマエになっていた。
そこでベネトン

  • セーターを編んでから染める

ように、仕事の順序を逆転した。
編みあがったセーターを色ムラなく染色するにはそれなりの技術革新が必要だったが、技術が確立されると染色から販売までの時間差はわずか2週間になった。
その結果在庫と機会損失は激減した... と、こんな話。*1

人様のビジネスにモノを言うために

T字形には、よく知りもしない顧客の業務についてSEが改善提案をするための兵器がいくつかある。その一つが「ビジネスの解析」だ。*2
T字形を使えば、作図の過程で「裁断」「染色」というentityを捕捉したときに、いったいどっちが先であるべきかを強制的に考えさせられる。
だから「染色する前に裁断をやったら、すごい儲からないですかね?」と提案することができる。
もちろん即否定されますよ。でも、戦術の定義は「数うちゃ当たること」だそうですから。言ってみることが大事だと思っています。

*1:おもしろい話だとは思うが、セーター編むのに何で5ヶ月もかかるのだろう。何かうそ臭い。

*2:他にも「リレーションシップの検証表」とかがある。